近未来の獣医療『AIM』:『猫が30歳まで生きる日』を読んで

数年前、猫の腎臓病治療に希望を与える成分「AIM」が発見され、獣医療界隈で大きな話題となりました。私は日々、腎臓病の犬や猫が皮下点滴のために来院する姿を見ながら、治療の限界に葛藤を感じていました。そんな中、AIMのニュースに心躍り、関連記事を読み漁ったのを覚えています。その後、AIMを発見した東京大学の宮崎徹教授の著書『猫が30歳まで生きる日』が発売され、すぐに購入。しかし、なぜか積読になっていました。今回、診療の合間に本を手に取り、ようやく読み進めました。以下、その感想と内容を簡単にご紹介します。
本の内容とAIMの可能性
本書は、AIM研究の背景や発見の経緯、そして創薬に向けた挑戦を丁寧に描いています。主な内容を以下にまとめます:
研究の始まり:宮崎教授がどのようにAIMにたどり着いたのか、その情熱と過程が語られます。
AIMの役割:当初は役割が不明だったAIMですが、研究が進むにつれ、腎臓病との深い関わりが明らかに。
創薬への挑戦:実用化に向けた困難と、今後の展望が描かれています。
獣医療に関連するポイントを抜粋すると:
- ○AIMは、腎臓の尿細管に詰まった「生体ゴミ」を標識し、貪食細胞に除去させることで腎臓を「クリーニング」。これにより、腎機能の低下を防ぎます。
○腎臓は一度壊れると修復が難しい精密な臓器ですが、AIMの投与で状態が改善する可能性が示唆されています。これは、尿毒素を直接除去する仕組みによるものと考えられます。
詳細はネタバレになるので控えますが、興味を持った方はぜひ本書を手に取ってみてください。なお、印税の一部はAIMの研究資金に充てられるそうです。
獣医師としての感想
この研究の背景や過程には、医療に携わる者として深い敬意を感じます。腎臓病はこれまで「治療不可能」とされてきただけに、AIMがもたらす希望は大きいです。ただし、創薬にはまだ時間がかかり、治療費も高額になる可能性があります。それでも、希望の光が見えたことに喜びを感じます。
余談
AIM30というキャットフードがありますが、AIMそのものが含まれているわけではないようです。AIM30には、体内でAIMを活性化させるアミノ酸(L-シスチン)が配合されており、腎臓病の予防を目的としたものだそうです。治療というより予防に焦点を当てた製品ですが、獣医師の間ではあまり話題になっていない印象です。実際の効果は未知数ですが、ユニークなアプローチであることは間違いありません。